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小児救急の知識

 

1.水の事故

 1~9歳のこどもの死因の第一位が“不慮の事故”であることをご存じでしょうか。先天異常、悪性腫瘍などの2位以下を大きく引き離し、全死因の約3割も占めているのです。その中でも交通事故と並び溺水が主な原因となっています。
溺水は夏場だけのものではありません。こどもの溺水は自宅の浴槽でよく起こるのです。とくに0歳から2歳未満では浴室での事故が8割も占めています。重心が高いので頭から転落する危険があり、浴槽、洗濯機、バケツの水などで10cmくらいの深さでも簡単におぼれてしまうことがあります。
「2歳のお誕生日までは、入浴後直ちに浴槽の水は必ず抜いておく」「浴室にこどもが入れないように簡単な外鍵をつける」「こどもの入浴中は目を離さない」などに気をつけましょう。
万一事故が起こってしまったとき、とくに水の事故は発見したときに適切な救急蘇生が行われるかどうかで運命が決まると言っていいでしょう。

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2.誤飲事故

 思いがけないものを誤って飲んだり、食べてしまったりする“誤飲事故”は3歳未満の乳幼児が8割以上を占めています。赤ちゃんが興味あるものに近づき、手に触れるものは何でも口に持っていくようになるのはこの年齢層のこどもの本能なのです。
私たちの救急外来には年間約150人ものこどもが“異物誤飲”で訪れています。内容はたばこ、硬貨、玩具、家族の薬、針、画鋲、灯油、電池、化粧品など多岐にわたり驚かされます。
わが国では誤飲事故の原因として“たばこ”が多いのが欧米諸国に比べきわめて多いのが特徴です。吸い殻の入った灰皿の水を飲んでしまった場合などは急性ニコチン中毒の危険があり、胃洗滌が必要な場合があります。こどもにとっては大変つらい処置であり、責められるべきはこども自身ではなく、手の届くところに吸い殻を放置したお父さん、お母さんでしょう。
気管支に異物が詰まってしまう“気管支異物”は圧倒的にピーナツが多く見られます。呼吸困難を起こしてしまうこともあり、「少なくとも満2歳を超えるまではピーナツなどの豆類を食べさせない」ことが大事です。
誤飲を防ぐには、「高さ1メートル以下の場所に、直径32ミリ以下のものを置かない」ことが必要です。これより小さいものは赤ちゃんの口の中に入ってしまいます。トイレットペーパーの芯がスケールの代わりになりますので、赤ちゃんの目線で家の中を点検してみましょう。
なにかを飲み込んだらと思ったら、慌てずに本当に飲み込んだかどうか、まず周囲を確認しましょう。口の中を調べて、残っていれば取り除いてください。指で舌の奥を押さえて吐かせてみてもよいですが、吐かせてはダメなものもあります。酸やアルカリ(洗浄剤など)、石油製品(灯油、ガソリン、ベンジンなど)です。番茶、牛乳などを飲ませましょう。防虫剤の場合は牛乳はダメです。ガラス片や尖った固形物の場合や意識がはっきりしない場合も吐かせてはいけません。処置がわからない場合は日本中毒情報センターのホームページをごらんになるか、最寄りの病院に問い合わせてみましょう。

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3.けいれん

 けいれんあるいはひきつけの典型的な症状は、こどもが突然倒れ、白目をむいて歯を食いしばり、手足をぎゅーっと硬くしたり、びくんびくんと動かしたりします。意識を失い名前を呼んでも返答がなくなり、呼吸がうまくできず唇が紫色になったり、口から泡状の唾液を出したりします。
けいれんの原因は様々ですが、最も多いのが熱性けいれんです。5~6歳ごろまでの幼児が高い熱を出したときに起こすけいれんで、日本人のおよそ7~8%にみられます。このほか、けいれんの原因としては脳出血、髄膜炎、てんかん、窒息、中毒、泣き入りひきつけなどが知られています。
けいれんを初めて目の当たりにすると、たいへん驚き、慌ててしまうのが普通です。しかし、大部分のけいれんはせいぜい数分で止まるので、落ち着いて対処することが大切です。まず、安全なところにこどもを移します。舌の付け根がのどをふさぎがちなので、肩枕をいれて下あごを引き上げます。舌を噛まないようにと割り箸などを口にさし込む必要はありません。しかし、嘔吐がみられた場合は窒息しないように顔を横に向け口の中の吐物をかきだしてやりましょう。
けいれんが長く続いて5分以内で止まらないときや何回も繰り返して起こるときは薬を使って積極的にけいれんを止める必要があります。また、けいれん自体が短いものであっても、意識が長時間回復しないときは急性脳症などの重い病気の可能性もあります。そのような場合は速やかに病院を受診し、治療を受けるようにしましょう。

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4.やけど

 子どものやけどは赤ちゃんに多いのが特徴です。赤ちゃんを抱いているときは、コーヒーやラーメンなどの熱いものを食べたり飲んだり運んだりしないようにしましょう。やけどは台所と風呂場で最も多く発生します。また、食卓のテーブルクロスを赤ちゃんが引っ張り、上にのっていた熱いものを頭からかぶることがありますので、テーブルクロスの使用はなるべく避けましょう。赤ちゃんをストーブやヒーターのそばに寝かせていて脱水や低温やけどを起こすこともあります。
やけどをしたら、その部分にすぐに水をかけ、15分以上流水で冷やし続けます(冷やしすぎに注意)。衣服を着ていたらその上から水をかけ、衣服が皮膚にはりついていれば無理に脱がせず、衣服をはさみで切り開きます。
やけどは深さと範囲が問題となります。からだの広い範囲のやけどでは入院治療が必要です。冷やしたあとは感染が起こらないように、きれいなガーゼで覆います。チンク油、市販の軟膏などを塗ってはいけません。やけどのあとの水ぶくれは針などで破らないようにしましょう。わずかなやけどでも受傷部位によっては将来動かしにくくなったり、美容上の問題となったりすることがあります。なるべく早く医師を受診するようにしましょう。

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5.乳幼児突然死症候群(SIDS)

 日頃元気な赤ちゃんが、眠っているうちに突然呼吸が止まり亡くなってしまうショッキングな病気です。「赤ちゃんの呼吸をつかさどる神経中枢のごくわずかな発達の遅れや異常が主な原因らしい」と考えられています。
SIDSはすでに聖書にも類似の記載があるように古くから存在した病気ですが、欧米諸国ではいまや乳幼児の死亡原因の第1位となっています。わが国でも年間300件以上発生していると推定されています。
妊娠中の母親の喫煙との関係を指摘する研究結果や、母乳育児の赤ちゃんにSIDSが少ないとの報告もあります。平成5年には“SIDS家族の会”ができ、こどもを亡くした両親への精神的援助、知識の普及、研究への援助が進められています。

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6.学童の突然死

 学童の突然死は毎年全国で100~130件発生しているといわれ、児童・生徒10万人あたりの1年間での頻度は小学生で0.3、中学生で0.8、高校生で0.9と年長になるほど増加しています。
原因としては、心臓に起因したものが7~8割とほとんどで、しかも運動に関係したものが大部分です。病気としては先天性心臓病が最も多く、次いで不整脈、心筋症、その他となっています。
現在この突然死を少しでも減らす目的で、小学校1年生、中学校1年生、高校1年生に心電図検査を含めた循環器検診が行われています。検診で最も多く見つかるのが期外収縮という不整脈ですが、運動時に悪化するときなどは治療が必要になります。肥大型心筋症は普段は全く無症状ですが、運動時に重症な不整脈を生ずることがありますので注意が必要です。
もうひとつ注意しておかなければならないのが、心筋炎という疾患で、種々のウイルスによって引き起こされます。“心臓の風邪”ともいわれ、ほとんど無症状のものから死に至るものまであります。死亡前に心筋炎の診断をつけることは困難なことが多いので、感冒などのウイルス感染があった場合は、心筋炎を合併している可能性は皆無ではないので、激しい運動は控えるようにしましょう。

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7.気管支喘息

 喘息発作の症状は、のどの奥がゼーゼー、ヒューヒューとなり、ひどくなると息を吐くのが苦しく、肋骨の間やのどの下がベコベコへこむ陥没呼吸といわれる呼吸困難の所見を示します。
気管支喘息の治療には急性発作時の治療と発作予防の治療に分けられます。
急性発作に対しては、唇の色が悪くなったり、意識がもうろうとなったりしている場合はすぐに救急車を呼んで病院を受診する必要がありますが、それ以前の段階では、自宅でまず気管支拡張薬を服用したり、吸入をすることにより治療を行います。それでもゼーゼー、ヒューヒューがとれなかったり、吸入で一時落ち着くも6時間以内に再び苦しくなる場合は病院への受診が必要です。病院では重症度に応じて気管支拡張薬の吸入、ステロイド薬の投与、酸素吸入、気管支拡張薬の持続吸入の順で治療が選択されます。
一方、発作予防の治療としてはまず第一にダニの除去を中心とした生活環境の整備を行い、重症度に応じて予防的薬物療法(内服・吸入)を行います。
気管支喘息による死亡は、上記のような治療の発達にもかかわらず現在もなくなっていません。かかりつけ医によるきめ細かな指導を受けるようにしましょう。

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8.急性細気管支炎・クループ症候群

 急性細気管支炎は2歳未満、特に6ヶ月未満の乳児におこる病気で、発熱、鼻水、咳に始まり、次いでゼーゼー、ヒューヒューを伴う呼吸困難、すなわち多呼吸や陥没呼吸が出現してきます。3~4ヶ月未満の乳児では無呼吸といって呼吸を休む重症例もあります。急性細気管支炎の病因の70~80%はRSウイルスとされ、発症季節として12月から3月までの季節に多くみられます。治療は輸液、酸素吸入などで行いますが、無呼吸を伴った重症例では人工換気療法が必要となります。
一方、クループ症候群は喉頭付近の急性炎症により、気道の狭窄ないし閉塞が起こり、犬が吠えるような咳、声がれ、息を吸うときのゼーゼーや陥没呼吸を起こす病気です。最重症型の急性喉頭蓋炎と呼ばれるものは主にb型インフルエンザ菌による細菌感染によって起こりますが、いわゆる“仮性クループ”は主に3歳以下の乳幼児の喉にウイルスが感染することによって起こります。呼吸困難が続くときは入院のうえ、輸液、エピネフリン吸入、酸素投与などによって治療しますが、最重症例ではやはり人工換気療法が必要になります。

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9.救急蘇生法

 心臓が止まって、脳に血液が流れない状態が4~5分続くと、たとえ救命されても脳神経機能が完全に回復するのは難しいとされています。もし、刺激に反応がなかったり、呼吸が止まっている場合は、心肺蘇生法を行います。小児の場合では救助者が1人の場合、まず心肺蘇生を行い、次にできるだけ早く119番通報をするのが原則です。

A)気道確保
まず、意識の有無を確かめます。
方法は体をつねったり、叩いたりして反応をみます。反応がなければ意識障害です。意識を失っていたら、舌が喉の奥におちこんで、空気の通り道がふさがっています。そのようなときは、なるべく固いところに寝かせ、頭を後ろのほうにそらせるようにして空気の通り道を開くこと、すなわち気道確保(気道の開放)を行います。口の中に何か詰まっていたら指でかきだします。

B)人工呼吸
もし呼吸が止まっていたら人工呼吸をします。
乳児の場合は、口と鼻をすっぽり口でおおい、呼気を送り込みます。1歳以上の場合は、鼻をつまんで、口から口へ呼気を送り込みます。最初は1回1秒の人工呼吸を2回おこないます。吹き込む量は胸が上がる程度です。

C)心臓マッサージ
脈の有無は、1歳以上は頚動脈でみますが、1歳以下では頸が短くてわかりにくいので、腕や股のところの血管の脈で調べるとされています。しかし、脈拍のチェックは困難であることが多いので、省略して、まず人工呼吸を2回行い、それに反応して自発呼吸が回復するとか、咳をするとか、あるいは身体を動かすといった循環の徴候が現れなければ、ただちに胸骨圧迫心マッサージを行うことが最近では勧められています。
乳児の部位は、左右の乳頭を結んだ線より指1本分下の中心を、一方の手の人差し指と中指を使い、胸の厚さの約3分の1くらいが沈む強さで、1分間に100回のスピードで押します。この胸骨圧迫と人工呼吸を30対2の割合で繰り返します。
幼児では同様の圧迫部位を1分間に100回のスピードで押します。圧迫する深さは胸の厚さの約3分の1くらいで、片手の手のひらの付け根で行います。人工呼吸との比率は救助者が1名でも2名でもやはり30対2です。8歳を超える子どもでは成人と同様に、両手で胸骨を圧迫し、30対2で胸骨圧迫と人工呼吸を行います。人工呼吸に自信がないときは、心臓マッサージだけでも構いません。
このようにして救急隊あるいは医師に引き渡すまで行います。脈が1分間に60回以上あり、呼吸をしているようならば、静かに寝かせて救急車を待ちましょう。
溺れたときなどに飲んだ水は、無理に吐かせる必要はありません。