第1回 鉄欠乏性貧血
貧血の中で最も多い鉄欠乏性貧血は、栄養障害の1つと考えられます。
原因・症状やメカニズム、そして毎日の食事に何をどう食べるかを知ることが貧血の予防につながります。
原因
人間の体には約4gの鉄が存在しています。この鉄が足りなくなって起こる貧血が鉄欠乏性貧血です。
赤血球は骨髄で造られていますが、その寿命をおよそ120日です。毎日、約0.8%の赤血球が老化して脾臓などで処理され、一方で同じだけの赤血球が産生されることによってその数が一定に保たれています。
このとき体内の鉄が不足すると、赤血球中のヘモグロビンがうまく造られなくなります。ヘモグロビンの量が減って、一つ一つの赤血球の大きさが小さくなってくることにより、貧血が起こってくるのです。
鉄が不足する原因としては、偏食、慢性の胃炎など胃疾患による鉄の吸収障害、 体の急速な成長、そして女性の場合には月経、妊娠、分娩、授乳による鉄不足が考えられます。また、痔、胃腸からの出血(潰瘍やがん)、腎臓や尿路からの出血、子宮からの出血(筋腫やがん)が原因になる場合もあります。
症状
出血がある場合は除き、貧血は徐々に進行していくので、症状もはっきりしたものがありません。なんとなく頭が痛い、肩がこる、疲れやすい、動悸や息切れがする、顔色が悪いなど、体調の悪さを体質と諦めてしまっている場合もあり、貧血に気付かないまま生活している人が多いのが現状です。高齢者の場合、ぼけや痴呆と間違うことも少なくありません。
鉄不足が高度になってくると、口の左右両側が荒れて切れる口角炎になったり、舌の表面がツルツルになって酸っぱいものがしみたりします。また匙爪といって、スプーンのように反ってしまうこともあります。
検査
特有の症状が少なく個人差もあるので、検査が必要です。赤血球数(RBC)、ヘモグロビン値(Hb)、
ヘマトクリット値(Ht:血液に占める赤血球の割合)、血清鉄(赤血球を除いた血液中に含まれる鉄の量)、血清フェリチン(組織に貯蔵されている鉄の量)などを検査します。貧血とは、赤血球数、ヘモグロビン値、ヘマトクリット値のうち、1つでも基準値以下であることを指しますが、鉄欠乏性貧血であれば特にヘモグロビン値とヘマトクリット値が低下します。貧血が軽度であれば、ヘモグロビン値が低いのに赤血球数は基準値内ということもあるので、注意が必要です。
血清鉄、血清フェリチンは体内の鉄不足を反映して低値になります。
予防
体内に入った鉄は、1日平均男性で約1mg、女性で約2mg排泄されますので、その分を毎日補充すれば十分という計算になります。
食品に含まれる鉄には動物性食品に含まれるヘム鉄と、植物性食品に含まれる非ヘム鉄があって、ヘム鉄は小腸細胞からよく吸収されますが、非ヘム鉄はタンパク質やビタミンCなどといっしょに摂取しないと吸収されない性質があります。赤身の魚や肉に鉄分が多いのは、ヘム鉄を含むミオグロビンが豊富なためです。レバーに鉄分が多いのは、肝臓に鉄が貯蔵されているからです。
いくらヘム鉄の吸収がいいといっても、レバーばかり食べているわけにはいきません。そこで、鉄分を含む食品と吸収を高める栄養素を組み合わせた献立を考え、有効に鉄分をとる工夫をすることが大切です。偏った食事や無理なダイエットは鉄欠乏性貧血の原因となりますのでバランスのよい食事を取ることを心掛けましょう。